県南の林内を散策。藪の中へ分け入っていくと不思議な形をした青い花が咲き誇っていた。タンナトリカブトだ。今までも葉っぱは見たことがあったけれど、花期にじっくりと見るのは初めてかもしれない。
おそらく日本でもっとも有名な毒草ではなかろうか。
主が太郎冠者に「この桶にはネ、附子(ぶす)という猛毒が入っているからネ、決して近づいてはいけないヨ。決しておいしい砂糖なんか入ってないからネ〈狂言・附子〉」と嘘をついた、当該猛毒「附子」も、このトリカブトの根を乾燥させたものである。
ちなみに、根だけでなく全草に毒があるのでご注意を。
タンナトリカブト
丹那鳥兜
学名 Aconitum japonicum ssp. napiforme
キンポウゲ科トリカブト属の多年草 有毒植物
全草のようす。100cmを超える草丈、したがって茎も太い。自重を支えきれないとみえて、写真のように周辺のスズタケのブッシュ(藪)によりかかるようにしてやっとこさ立っている株が多かった。そのせいか、なんとなくお行儀の悪い印象。
花のアップ。ひとつの花は縦4~5cm程度。薄い青紫色だが、色あせって白っぽい部分や、黄緑色がさしている部分もあり、やや汚れているような印象を受ける。花の内側には直毛が多く生えている。
葉はてのひら状に三全裂し、細かく切り込みが入る。色合いといい、葉の切り込みと裂け具合といい、どことなくヨモギに似ている。実際、ヨモギと間違えて採取しての中毒も発生しているらしい。
淡く光沢のある葉の裏側。ヨモギだとしても、スジっぽくておいしくなさそうな葉脈の浮き方。
烏帽子のような花、実は萼片(がくへん)
この角度で見ると、より伝わりやすいのではなかろうか。トリカブト、漢字で書くと「鳥兜」。これはその花の形が烏帽子に似ていることによる。
ごく初期のつぼみ。このころからすでに烏帽子たる才能を隠し切れずに、なんとなくそんなオーラをにじませている。
そして、これらの写真を見て、勘のいいひとはお気づきになったかもしれない。また勘の悪い人でも小見出しを読めばだいたい想像はつくだろう。そう、先ほどから僕が「花」と連呼している、一見花弁に見えるこの青紫の構造物、じつは萼片(がくへん)なのだ!
写真で解説してみると……
一番上からかぶさっている、かぶと・ヘルメットなどとも呼ばれるパーツは「頂萼片」。
頂萼片の前方の突起は「くちばし」。
おしべを横から包み込むようにしているのが「側萼片」。
下に一対、ウサギの耳を逆さに生やしたようなのが「下萼片」。
実際の花弁は頂萼片の中に収納されていて、解体しなければ見ることはできないのだそう。識別に困ったときはそこが重要になるらしいのだが、分布的にタンナトリカブトでほぼ間違いないので、そっとしておいてあげようと思う。(本音は、毒草だからあんまり触りたくないのである)
コメント
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