久永草太の歌壇賞を「獲れなかった」連作たち

文芸

この記事では、久永草太がこれまでに歌壇賞に応募し、かつ賞を獲れなかった連作たち3編を公開しています。また、過去の連作の問題点を振り返りつつ、僕自身が連作について勉強し直すためのページでもあります。何かの参考になれば嬉しいです。

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歌壇賞と夏休み

9月、ツクツクボウシの声の勢いが徐々にすぼまってくる頃、大学生なら夏休みが残り半分を切り、歌壇賞に挑戦する人にとっては〆切まで一ヵ月を切ったころです。
(。-`ω-)そろそろ連作作るか……と重い腰を上げ始めなければいけません。

「歌壇賞」とは、本阿弥書店が主催する短歌の新人賞です。30首連作を競います。

歌壇賞の〆切は例年9月末。僕も夏休みの宿題の気持ちで連作を作って提出していましたが、昨年「彼岸へ」という作品で第34回歌壇賞を頂いたので、ついに、やっと、晴れて、この宿題から解放されました。

心の花の伊藤一彦先生に「久永君は歌壇賞は出したかね、ぜひ出しなさいよ」と毎年夏にせっついて頂き、大学1~3年生の3回この賞に挑戦して落選、2年のブランクをあけて4回目で賞を頂きました。遅刻してやってきた三度目の正直ですね。
(ちなみにこの2年のブランクとは、コロナで心の花宮崎歌会が開かれず、伊藤先生にも会えず、せっついてくれる人がいなかったために怠惰していただけで、スランプとかではありません……)

落選した作品がどんな作品だったかというと、その当時はまあ悪くない作品だと思っていたのですが、後年見返すとやっぱりアラというのは見えてくるもので、そんな「アラ」をここで共有しつつ、今年の歌壇賞に挑戦する人の糧にでもなれば供養になるかな、との思いでここに公開いたします。(たぶんこれらの連作をいつか歌集に載せることがあるとしたら、推敲して形を変えてしまうので、そのまえの記録です)。

歌壇賞応募作(2017)「うずまき」

のちに歌壇賞を受賞する(ドヤ)久永草太の初めての応募作(一部改作)です。
ところどころ初々しいですね。結果はかすりもしませんでしたが、初めて30首という大きな連作を編んで、達成感はすごかったです。
『宮大短歌・2号』に掲載。

「うずまき」の良かった点

  • 「ベトナム」という舞台、文化の面白さを出せていると思う。
  • 韻律も問題ないと思う。

このころは笹公人の『念力家族』に結構影響を受けていた自覚があって、「不思議な状況」をあまり理屈で説明せずに、あくまで観察者的な立場からそのまま出しちゃう、という方法をためしてみたかったんだと思います。

国ごとの愛の形よ三人乗りバイクにて子は父母にはさまれ
ちょっとだけ漢字が読めるチーの眉上下させおり「親子丼」の字

このあたりの歌は今でも気に入っている歌です。

「うずまき」の反省点

  • 序盤、入国までのシーンに歌数を割きすぎている。
  • ベトナムで出会った面白い風景の時系列的な列記に終始してしまっている。作者像の見せ方が不安定。
  • 提出時(改作前)に、一部文法ミスがあった。これだけで十分落ちうる。
  • 倫理観が未熟。

特に最後のポイント。大学を卒業した今だって、常に自分の倫理観が信用できないのに、なんでかこのころの僕は「自分は倫理観のバランス感覚がいい」という自信を持っていたように思います。

浅黒の半裸男の尻ふたつ乗せて原付意気込みの声
「これは何」「バナナの茎と豚の血よ」飯が魔界化する英会話
誰が好き? 英語が苦手なチャウがふとベトナム語になる瞬間が好き
ベトナムの人らの肩の四角さの見納めとしてロンに手を振る

このあたりの歌は、そういう倫理観のおごりが見えちゃっています。「浅黒」や「肩の四角さ」といった容姿の描写の仕方は、今だったらもう少し慎重に扱うような気がします。「魔界化」という表現はその土地の風土に対するリスペクトが足りないと思うし、「英語が苦手なチャウ」というのもやや上から目線な物言いです。

倫理的に正しい歌が良い歌、とは限りませんが、倫理という「型」をあえて破って見せるのと、元々の破れが見えちゃうのとでは、意味が大きく異なってくると思います。そしてまた、あえて破るようなやり方の人なら賞なんていらないだろうし、破れちゃっている人に賞を与えるのは危険です。自分の倫理観を常に疑える人を目指したいですね。なんか短歌の話じゃなくなってきましたけど、切にそう思います。

歌壇賞応募作(2018)「銀ギツネ」

歌壇賞二度目の応募作(一部改作)です。またも予選落ち。あまり相聞歌を詠まない僕にとって、30首ぶんの話題というのは大きな壁で、前年のベトナムや本作の京都など、いつも旅行頼みだったなあと思います。
(/・ω・)/夏休みの絵日記に書くことがないからどこか連れてけ!
の小学生の気持ち。
『宮大短歌・3号』に掲載。

「銀ギツネ」の良かった点

  • 文体の口語的に軽い言い回しのバリエーションが増えてきた。
  • 連作の終わり方は気に入っている(旅行を最後まで描かず、旅行の途中で終わる)

中学生のときの修学旅行の京都で、僕は風邪をひいてホテルでずっと寝ている、という忘れられない経験をしました。その話をするにつけて「じゃあやり直そうよ、修学旅行」と言ってくれる友達たちと行った京都、台風だったけど楽しかったな。

川の死ぬところはここか九十度護岸に添って折れてゆく水
おかわりを二度も頼めばほら外で豆腐小僧が闊歩する音

この二首はお気に入りです。

「銀ギツネ」の反省点

  • 「あやにく」とか、たまに使い慣れてない匂いのプンプンする言葉が出てくる。
  • 連作全体の状況がわりとカオス。京都旅行中に台風襲撃、という盛りだくさん感。
  • 上記に関連して、「旅行の連作です」という宣言のタイミングが遅い。中盤の「男五人修学旅行復刻版」という言葉までわからない。
  • 男五人、という集団の個々を描き切れておらず、ホモソーシャル感が出てしまっている。

反省点、割と多いです。
実際の旅行自体が割とカオスだったので、詠み手の処理能力でいかにストーリーをクリアにできるか、というところが勝負になる連作でしたが、力及ばず。

またこの連作が「どういう主体の」「どういう舞台の」連作か、というのはやはり読者としては序盤で説明してほしいところだな、と思います。映画「ラ・ラ・ランド」も、最初に高速道路で盛大なダンスシーンを描きますが、このシーンによって「この映画はミュージカルだよ」と視聴者に宣言することに成功しています。

しかしこの連作、序盤でひたすら川のことを詠んでいる。地味すぎる……
(/・ω・)/でも仕方ない!治水とか暗渠とか好きなんだもん!
で乗り切れるかと思っていましたが、旅行の連作だよ、と匂わせるくらいはしておくべきだったと思います。

湯豆腐をとらえる箸の思慮深くおまえが父となる日を願う
↓(推敲)
湯豆腐をとらえる箸の思慮深くおまえが父となる日をおもう

この歌はいまだに自分の中で(倫理的に)評価が付けられずに悩んでいる歌です。「父となる日」という言葉がもつ暴力性を考えれば「願う」はだめだろう、と。「おもう」だけなら主体の自由として許されるかな、と考えて推敲しましたが、これで暴力性が消えたか、という部分は慎重に判断しないといけないな、と思います。

歌壇賞応募作(2019)「ニガウリの花」

大学3年生、三度目の応募作です。
(`・ω・´)はじめての予選通過
この年から一人暮らしがはじまり、生活の全てが楽しかったころの連作です。
旅行詠のようなテーマ性や時間軸がない中で、歌をどう並べるか、が連作のストーリーを大きく変えてしまう。締め切りまでずっと悩んでいた記憶があります。
この連作は本稿で初公開(だったはず)。

「ニガウリの花」の良かった点

  • 脱・旅行詠! 旅行に頼らずとも30首詠めた!
  • 出だしで「引っ越し」「新しい暮らし」感を宣言できている。
  • 生活の中で得た言葉たちなので、無理がない

さあ髪をたっぷり切ってくださいなこの地の人になる手はじめに
この家で発せばぜんぶ内言の例えば「あっこれカビきてるじゃん」

このあたりの口語的な言葉運びは、ほとんど今の自分の文体と変わらないです。そもそも文体があまり変化しないタイプの人間なのですが、口語の使い慣れ方は、この連作の頃が成長期だったように思います。

ちょちょんがちょんチャスジハエトリ盆踊り寝たかわからぬような昼寝だ

こういう変な歌を入れる余裕(?)も生まれてきたようですね。

「ニガウリの花」の反省点

  • 「新しい暮らし」という主題(≒ストーリー)は明確だが、そこから伝えたいメッセージ(裏テーマ)がない。
  • すごい半端に相聞歌っぽいものを入れている。

連作に数回にわたり登場する想い人っぽい「あなた」。恐ろしいことに全く実在のない架空の人物なんですね。旅行詠に依らず30首作り上げようとした結果生み出してしまったゴーストとでも言いましょうか……。

( `ー´)ノどうせみんな詠みたいのは相聞歌なんだろう⁈
という穿った見方で編み出した連作は、予選こそ通過しましたが、誰の◯ももらえず。実感が伴う、というのは大事なんだな、と思います。

潰れても病んでも歩けありんこよここは「死ぬ」すら動詞の世界
新聞でくるんだ葱は青々と田辺聖子の死など知らない

こういった、テーマの近い歌、伏線と回収のような関係の歌たちを、近くに並べすぎているのも、作り手の下心が見えてしまうな、と思います。もう少し距離を離して置いても、きっと読者は気づいてくれる、という信頼が足りなかったのかもしれません。いやむしろ、「気づかれなかったら気づかれなかったでいいか」という諦念の不足とも言えるかも。

最後に

「ニガウリの花」から二年のブランクをおいて、大学6年生で歌壇賞を頂きました。受賞作「彼岸へ」は雑誌でご覧いただければ嬉しいです。

  • 「どういう主体の」「どういう連作か」を早めに明示する。
  • メッセージ(裏テーマ)を持つ。
  • 自分の倫理観を最後まで疑う。

と、この辺りは作っている最中からすごく意識したわけではありませんが、なんとかクリアできていた連作だったのかな、今後も気を付けなければな、と思います。

でもまあ、好きなこと詠むのがなんだかんだで一番いいと思います。好きなことをたくさん詠めた連作なら賞を「獲れなかった」ことなんて些細なことですから。

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